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執筆者の写真Asian Commons

アジア法律家交流会第7回目「台湾におけるレイプ被害者支援の対応」

2022年9月28日、アジアの弁護士や専門家が情報交換や知識を共有することを目的とした東京大学主催のオンライン交流会に、ALNのメンバーが参加しました。第7回目の勉強会には、台湾のケースワーク室性暴力対策班のソーシャルワーカーである張妙如さんから、台湾でのレイプ被害者支援対応の経験についてお話し頂きました。


張妙如さんについて

現在、現代婦女基金会のケースワーク室性暴力対策班に勤務。大学で人類学を専攻しソーシャルワーカーの修士を取得後、現代婦女基金会にインターンとして入り、そのまま現代婦女基金会へ就職。主な担当分野は、DV、レイプ、セクハラ被害のケースワーク。その他、各自治体のジェンダー問題、性暴力被害者、セクハラ防止の委員会の委員の一人も務める。


以下が、講義と質疑応答の内容をまとめたものです。


講義


1987年に現代婦女基金会 (MWF)を設立

現代婦女基金会初代会長のペイさんは、台北市の議員でもあり台湾司法委員会の委員長でもあった。現代婦女基金会は、男性女性に関わらず女性問題に取り組む警察、法相、福祉、医療関係の有志によって結成された。組織の名前は、当時の女性たちが現代社会と伝統の間でどうバランスをとればいいのか悩んでいたため、その女性たちに協力したいということでこの名前がついた。


支援とニーズ

設立当時は、レイプ、セクハラ、DVの被害者が主な相談者だった。しかし、被害者たちはとても救われる状況ではなかった。理由は、警察が通報を受け付けない、病院は診察拒否するのみながら、診断証明書も発行しなかった。また、政府からも社会福祉支援もない状況で身の安全さえ守ることが難しい女性たちに、バランスを取って活躍する場を見つけるのは不可能な環境だったのではないだろうか、と現代婦女基金会の私たちは考えている。


1988年に「女性たちを守るセンター」を設立

台湾で初めてのレイプ被害者相談窓口の設置し法律、医療、警察、裁判等寄り添う支援を行ってきた。


現代婦女基金会 (MWF) のこれまでの取り組み

【1987-1993】

女性を守る相談窓口を設立しその窓口を中心に活動。


【1994-2001】

法改正、性暴力防止律法推進を行ったことで、レイプ防止法、DV防止法、セクハラ防止法が次々と立法された。被害者への法律支援、訴訟支援委員会を立ち上げ、更に病院とも連携して、事件の証拠をどう確保するか等現在の基盤になる内容に取り組んだ。


【2002-2011】

裁判所にてDV支援窓口開設し、DV被害者のセーフティネットとして一つの窓口で警察や社会福祉など様々な支援に繋げられるようにした。これにより、性暴力被害者がセカンドレイプにもなりうる複数回による証言を繰り返さなくて良くなるように取り組んだ。


【2012-現在】

ストーカー防止法の法改正を求める活動にMWFも関わっており、更にレイプ事件への司法仲介者推進も行っている。司法仲介者とは被害者が直接検察官や裁判官に陳述するのではなく、被害者と検察官や裁判官の間に専門家が介入し、安心して被害者が証言できるように環境を整える取り組みの事である。そして現在、根本的な性犯罪の定義を積極的な同意 “YES” でない限りは “YES” でないという定義に再考するべきだと主張している。



90年代の台湾の立法背景にある主な事件

この時期性暴力事件が繰り返し起きていた。


【1992-1999】

小紅帽運動:台湾で名門の清華大学で男子学生が女子学生にセクハラを繰り返していた為、女子学生たちがそのセクハラに対し抗議運動をキャンパス内で行った学生運動である。


【1992-1995】

華岡事件:華岡という地域で3年間の間にとても凶悪な連続レイプ事件が 起こった。


【1993】

中興大学の女子学生が殺害された。


【1994】

台湾師範大学の大学教授による連続レイプ事件、またカルト宗教団体幹部の女性信者レイプ事件が起こる。


【1996】 

幼い林ちゃんが陰部に串をさされるというおぞましい事件。あまりにひどい事件な為、性暴力事件なのか傷害事件なのかと社会で大論争になった。


更に、野党民進党の女性議員でジェンダー政策の責任者であるペイ・ワンルウ

さんがタクシーで帰宅中に行方不明になり、レイプ・殺害された事件がある。

あまりに衝撃的だった為、同年末にはたった一ヵ月でレイプ防止法が可決・施

行された。


ケースワーカー視点で見る被害者の救済不可な状況

ケースワーカーから見て、被害者の救済に繋がらない問題点がいくつかある。

まず、警察にレイプ事件を通報しても相手にしてくれない事が殆どであった。理由は、レイプ被害者の私生活や自己責任ではないかとしてしまうためだ。また、レイプ事件を捜査するのは縁起が悪いという迷信を信じこむ警官が多く、証拠となる精液がついた被害者の服等、本来は保全すべきものに対して、「汚いもの」「触ると運が悪くなる」という思い込みが強かった。更に、事件を取り上げる事自体も縁起が悪いと思われていた。当時はレイプ防止法もなく、刑法自体も古かった。警察のノルマ上、レイプ事件は自身の点数にならず出世に繋がらないという警察内の人事事情も背景にあり、被害者が立件しようとすると賄賂を求める等もあった。


更に、当時の医療関係者内では裁判は面倒で関わりたくないとの声があり、証明書を出してはくれなかった。また、証明書を発行するにしても。発行手数料は1枚6千元で、一般市民が負担するには大変な金額であった。



裁判においての問題

張さんたちが統計を取った結果、被害者は29回ほど裁判所に行かなければならないことが判った。そして、裁判では下記のような問題質問等が裁判プロセスの中で繰り返される。


例)

「あなたは処女ですか?SEXしたことがありますか?」

(聞く意図=処女でなければレイプされても構わないだろう。)


「その時激しく抵抗しましたか?抵抗をしっかりしてないのなら、あなたに責任があるのではないですか?」

(聞く意図=抵抗を激しくしてないならOKという事だったのでは?)


「服装がセクシーだったのではないですか?そんな夜中になぜ外を歩いたのですか?」

(聞く意図=被害者に非があるのではないか?自己責任論。)


立法推進-レイプ防止法

90年代、現代婦女基金会の会長で当時国会議員だったペイ議員は、司法委員会の委員長になった。委員長にはアジェンダを決める権利があったので、ペイ委員長はこの時にレイプ犯罪を国会審議会に提言していた。しかし、お互いの合意がなければ性行為はレイプ犯罪になるという事は、夫婦間でもレイプ犯罪が成立する可能性があるのでは、と当時殆どが男性議員だった国会で多くの反発があった。その為、一次的に審議が止まっていたが、後のペイ議員殺害事件により、レイプ防止法は一カ月で可決・施行された。


1996年の法律

1996年の法律では、レイプ犯罪を再定義し、そのプロセスについても工夫された。警察で調書を取る時は、ソーシャルワーカーが同席しサポートを受ける事ができるとした。そして、被害者と被告の尋問は別々で行われ、被害者は直接被告と対面する必要がなくなった。また、裁判の際に被告の代わりに代理弁護士が質問することがあるが、不当な質問内容であれば裁判官がその質問を却下することができるようにもなった。行われる裁判自体も、被害者のプライバシーを守るために非公開とすることができるようになった。


レイプ防止法は、もう一度改正され、レイプ被害者が精神的ストレスで話せる状態でない場合の対策もなされた。


1つ目の対策は、専門家が介入できる司法仲介委員である。精神的ストレスで被害者が話せない、被害者が未成年である、被害者に障がいがある場合等は、専門家が介入して被害者が直接話すだけでなく、その専門家にサポートしてもらいながら取り調べ等を受ける事ができる。


2つ目は、専門家証人の導入である。元々一般の刑事事件にもある仕組みであるが、実務的にはあまり実行されない事が多い。しかし、このようなレイプ事件等には特に必要だと強調する必要がある。


3つ目は、裁判自体は非公開となっているものの、1996年と比べてネットやSNS等個人を特定できるツールが増えてきたので、拡散した場合も規制の対象となっている。


刑法の改正

1994年、性暴力犯罪者は仮釈放の条件として治療を受けなければならなくなった。1999年には、更に大幅な改正が行われた。まず、レイプ犯罪の定義が変わったのである。元々レイプ犯罪は、「社会秩序を乱した」という定義だった。守るべきは個人ではなく、あくまでも社会秩序であった。改正後は、「個人の性的自主権を守る」「個人を守る」という定義になり、罪名も強姦罪から強制性交罪へと変わった。また、対象が女性だけではなく、あらゆるジェンダーに対するようになった。


また、強制については元の条文に「抵抗できない」とあり、被害者は抵抗必須という事で、被害者が抵抗できない状態になった場合、出来なかった事を証明する必要があった。この強制の部分を、新たに「抵抗」ではなく「本人の意思に反する」時点で強制性交となるように改正した。


最後に、レイプ、強制わいせつ犯罪は申告制となっており、被害者が言わなければ立件できないものであった。しかし、それは被害者の精神的な状態を考えてもハードルが高いものである為、改正後は非申告制になり、検察や警察は事実を確認した上で捜査する義務を追うようになった。実刑も長くなり、最大30年の過去の事件までも追及できるようになった。


制度全体の推進:One Station

One Stationというシステムは、レイプ被害者が病院に行くと専用窓口があり、病院に警察、ソーシャルワーカーが来てくれるシステムだ。調書等もソーシャルワーカーの支援と共に受ける事ができ、その後も対応してもらうことができるという窓口一つの包括的なシステムである。通常の事件と分別することで、病院側にも事件の特性を意識してもらい、通報や証拠保全等の手続きをしてもらえる。



制度改正-陳述プロセス

性被害者は、病院、警察、検察、裁判等で何回も証言しなければならない。特に立場が弱い被害者である未成年者や障がい者が、性暴力が原因のPTSDを発症したりするなどの精神的苦痛を避ける為に、警察、検察とソーシャルワーカーが協力して1回でまとめて被害者の話を聞けるプロセスにしている。環境についても、通常の取り調べ室は圧迫感を感じる部屋になっている場合が多いが、、被害者ができるだけリラックスできるように配慮し整えた専用の部屋を警察省、検察省、病院に設置している。


組織連携だけでなく、ソーシャルワーカーが必要と感じた場合は、医療関係者等の専門家の早期介入を依頼し、その専門家の仲介により証言を整理することができる。また、警察での取り調べを録音・録画し、検察はその資料を見て必要があった場合だけ質問する。これで、一から被害者に聞く必要はなくなり、起訴した後も被害者は証人として立つ回数は3回程で済む。このプロセス改正で陳述件数が減少した。


Only YES means YES

根本的な性的自主権の侵害とは、YESと言ってない事が自主権の侵害に当たるというのが現代婦女基金会の主張である。警察や検察から被害者に対し、「あなたはNOと明確に言いましたか?」という質問があるが、被害者がはっきりNOと言ったのとは別で、被害者がYESと言っていない限りそれはレイプではないだろうか?


恐怖等でNOといえない状況が普遍的な問題になっており、そういった被害者を配慮する為に、YESと言ってない限りはNOであると考えている。この主張は、台湾だけでなく既にカナダやアメリカで立法され、ジェンダー教育にも取り込まれている。はっきり合意がなければレイプになる事が社会的認識になれば、性暴力は減るのではないかと現代婦女基金会では考えている。


性的侵害の概念

法改正前の台湾では、「NO means YES」、口で抵抗しても社会的視線は被害者が悪いとなっていた。守るべきは個人ではなく社会的秩序であり、被害者が必死で抵抗してNOと言うだけでは、世間の認識はYESであった。


1999年の法改正後、被害者がNOと言えばNO、それ以上に強制した場合は、性的自主権の侵害とされることになったが、実際これだけでは不十分であった。一般的人間が危機を感じた時に、いくつかの反応パターンがある。逃げる、戦う、頭が真っ白になる等。台湾の女性には、社会的役割として、「言う事を聞く」というものがあった。危機を感じた時の反応に加えて、「女性は言う事を聞くべきである」という文化的影響が大きく心理的抑圧をしている。男性に抵抗すれば命の危険を感じ、NOと言えないことがあるのは心理的、社会的制約があるからだ。そして、台湾の被害者には女性が多い。性的自主権の主張だけでは足りないので、性的同意権の主張も必要だとなっていく。


昔の法律は社会的秩序を守り、今の法律は個人を守る。性的同意権を守る事をこれから進めていく予定だ。


それに伴い、法的用語も変えるようになった。昔の社会的評価がマイナスになるような言葉が個人を守る法律用語にまだ使われている。これからの法律用語は、同意なき性交、積極的同意違反等、「同意違反」を強調できることを目標に進めている。抵抗したけど抵抗できなかった等、被害者の意思に違反したNOだという立証は中々難しい。その為加害者が同意を得たと証明できれば、それはレイプ犯罪になるという立証責任を、被害者から加害者へ転換するのを目標としている。


まずジェンダー教育の内容に性行為の同意を浸透させれば、被害を減らすことができるのではないだろうか。現時点で、台湾ではそのような法改正はまだしていないが、昨年すでに同意違反で何件か判決が下されている。カナダやアメリカの一部地域では、すでに法改正されている。加害者が立証責任するのは難しく、すぐに変化はないだろうが、性犯罪の定義・考え方を根本的に逆転させる事は、長期的に見て裁判や教育の大事な基礎となっていくだろうと考えている。


【レイプ防止法】


第6条(ケースワーカー業務)

各自治体には、性暴力防止センターを設置する義務が定められている。24時間ホットラインで、電話一本で窓口に繋がるようになっている。この窓口に繋がると、医療関係者、病院への連絡がいき、病院に警察が駆けつける等すぐに対応ができるようになっている。また、一人ではなく、ソーシャルワーカーが警察と同行するようになっている。体の治療や証拠の保護、取り調べも病院でできる。心理カウンセリング、シェルターの手配、法律的支援、弁護士の手配が全てセンターによって対応可能である。被害者への支援チームを構成しこのチームで被害者支援、更に加害者への治療等にも対応する。加害者の治療もセンター業務の一つである。また学校への意思教育等全てが任務である。


第7条(教育)

教育に関しては、小中学校で4時間以上の性暴力防止の教育(授業)が必須になっている。会社や組織が30人以上になる場合も、定期的に研修を行わなければならない。


第8条(公務員の通報義務)

医療従事者、社会福祉者、教育、保育者、警察、労働関係者、司法、入管、矯正員、刑務所、地域の長等あらゆる公務員は、被害者を見つけた場合は、発見後24時間以内に通報する義務がある。この通報者の個人情報は非公開になっている。これが通報責任制度である。


※補足:通報責任制度は、被害者の支援を始める手続きの要件になっている。


第12条(守秘義務)

個人情報守秘義務について警察、裁判官には守秘義務があり、現在、実務手続きと報道の自由とのバランスをとるのが難しい状況になっている。前にも提示した通り、被害者のプライバシーの為に裁判は非公開だが、メディアが情報開示請求した場合は、個人情報を隠してある程度の情報を開示するようになっている。個人情報に繋がらないようにしているが、報道により被害者に近い人物が被害者にたどり着いてしまう可能性がある。情報開示請求で被害者が特定されてしまった場合は、守秘義務違反になるのかどうか、責任の在り所が曖昧になっている。しかし、開示しないのも報道の自由を無視する事になってしまう。


※補足:警察に通報して性犯罪となった場合は、被害者の本名では呼ばれず、コード名を被害者に与えるという守秘措置をとっている。


第13条(プライバシーの保護)

インターネットの発達背景もあり、個人を守るために適応した法律がある。メディアも個人を特定できる報道はしてはいけない。誰でも、個人を特定できる情報を拡散することは違法となっている。


第14条(性犯罪に関するトレーニング)

司法と医療に関して性犯罪専門家のトレーニングを受けた警察、検察、裁判官、医師たちが性犯罪事件を担当する。


第15条

被害者の同席は、ソーシャルワーカーだけでなく、被害者の身内や医師なども同席することができる。実際は、ソーシャルワーカーの同席が殆どである。

ソーシャルワーカーの役割は、同席することだけでない。特に未成年の被害者の場合は、担当するソーシャルワーカーの意見を裁判で聞かれる事もある。現場についての意見ではなく、被害者がどういう状態なのかについての意見である。どうケアしたらいいのか、などの専門的な意見を提案することができる。被害者が未成年の場合は、明らかに必要でない限りは未成年者を守る為にソーシャルワーカーの同席は必要とされている。また、加害者が家族の場合は精神的プレッシャーにもなる為、同席は認められない。


第15条1項

新たにできた司法介入の制度で、取り調べや尋問に被害者と警察、検察の間に入る専門家がいる。第三者だけではなく、訓練を受けた警察や裁判官も専門家として介入することができる。訓練で資格を取ることが必須で、この研修と訓練は現代婦女基金会が行っている為、現代婦女基金会は毎年政府に資格者リストを提出している。


第16条

被害者が精神的ストレスで話せなくなってしまうので、取り調べや聴取では、加害者と被害者は同じ場所にいても直接対面することは無い。法的に質問・回答をすることは可能である。但し、事件に関係ない性的な質問等、不当な質問は禁止されている。事件に関することしか基本的には質問できない。裁判同席実務として、被告側の弁護士から本件と関係性のある説明ができる質問のみ問う事ができる。


第16条2項

ジェンダー差別の禁止。被告、弁護士があらゆる差別表現をした場合は、裁判官は制止する義務がある。

例)LGBTQの被害者に対して差別発言をする等。


第17条

被害者が検察官に説明できなくなった場合は、真実を確認する前に警察の調書をそのまま検察官が使用することはできない。しかし、被害者が精神的ストレスやPTSD等の為に法廷で自由に話すことができない場合、被害者が未成年者あるいは障がい者である場合に限り、例外として、警察の調書を検察官が使用できる。刑事訴訟の前に検察の取り調べを受けるのは被告の権利を守る事にもなるので、調書をそのまま使用する事は人権侵害だという理由で、憲法裁判となっている。


実例)複数の加害者から性暴力を受けた被害者が通報し、検察事務官が話を聞いた後、法廷に出向いて加害者を見た時にPTSDを発症してパニックになり、法廷から逃げ出した。裁判結果は直ちに憲法違反ではないが、一人の判断ではなく。被害者の状況を把握する専門家の意見を集めて判断しなければならない。


第19条

各自治体は、補助金の根拠として医療保険や国民健康保険に含まれてない心理カウンセリング、弁護士費用、医療費、治療費等を、被害者が請求すれば支給することができる。


ソーシャルワーカーの被害者以外の業務について

ソーシャルワーカーは、被害者本人をケアするだけではなく、家族や友人に対してもケアを施す。直接事件に関わってなくても、被害者の大事な家族や友人たちが何か一言言ってくれるだけで被害者にはサポートになるので、家族たちと連携をとる事も行っている。


台北市内のOne Station拠点




温かい部屋 : 被害者が話しやすいように整えられた部屋

リラックスできるようにリビングのようにしている。警察が来ると緊張したり驚いてしまうため。部屋にマジックミラーをつけて警察や検察官は別室で被害者の話す様子を確認することができる。これを「温かい部屋」と呼ぶ。






専門的鑑定チャート

ソーシャルワーカーは、警察や指定病院と連絡や相談をしながら、被害者の状況を鑑定する。鑑定の結果、被害者が大丈夫であれば調書を作る。お互い早期連携と鑑定ができるように、このようなチャートがある。

※補足:病院の鑑定は1人の医師ではなく心理、医療のチーム体制で行う。




質疑応答


【質問1】

張先生のようにベテランの先生にとって新たな発見はありますか?


【応答】

私にとっては毎日が新たな発見ばかりです。ソーシャルワーカーとして当事者の状況は其々異なりますし、連携してきた検察官や警察は異動もあるので、連携する上でも関わる人間の性格や経験が違います。そういった変化の中で色々チャレンジしなければならないのです。自分の中で大事なのは情熱で、慣れたとかはなく、常に新たに挑戦するのが私のやりがいになっています。


【質問2】

重複陳述を避けるために例外的に警察の調書を使用するという話がありましたが、未成年者や障がい者には明確な定義がある程度あると思いますが、それ以外はソーシャルワーカーの判断が大事だと思いますがどうでしょうか?


【応答】

大事ですね。ソーシャルワーカーとして意見を発言すると、その時に各連携者と意見交換して丁寧に行っています。外国人の場合には海外逃亡の恐れがありますので、入管や警察との連携が必要となってきます。私一人で決めているわけではないのです。


【質問3】

ソーシャルワーカーとして適用すべきだと提案しても、その提案が採用されない場合はどうしているのでしょうか?


【応答】

ソーシャルワーカーには決定権はありません。その採用不可決定が問題と判断した場合は、各地域にある性犯罪防止センターで定期的に会議があるので、その会議に提言することができます。センター全体の会議で認定されれば、センターが行政指導の書面を送ることができます。直ちに何かできるわけではないですが、不当な対応を減らしていく事はできます。


【質問4】

全体的に刑事事件におけるソーシャルワーカーの役割がとても気になります。

ソーシャルワーカーに法的な力はありますか?中国ではソーシャルワーカーが関わる事はありますが、未成年者等の初期的な部分でしか関わることができないので。


【応答】

私達は取り調べをする訳ではなく、法的な権限はありません。被害者のケアなので被害者の意思を尊重します。


【質問5】

司法仲介する専門家とソーシャルワーカーの違いをもう少し教えてください。


【応答】

ソーシャルワーカーは傾聴をします。被害者によっては数字や時間の概念を持っていない障害のある方もいらっしゃるので、人数は答えられないけれども「お母さんはいますか?」と聞くと「います」と答えられる事があります。どうやって本人の言葉で説明出来るのか、どうやって真実を引き出せるか、などを考えるのは、ソーシャルワーカーではなく別の専門家が行います。司法仲介の専門家は、被害者の通訳と言えますね。未成年の子供の言葉を大人が理解できるように訳したり通訳するような感じです。


子供から真実を聞き出す研修があるのですが、例えば、「学校で何をしましたか?」と子供に聞いても子供は覚えていない。そこで聞き出すスキルが必要となります。そのスキルの研修の例で、まず子供を集めて遊ばせてみます。スキルを学ぶ研修生は、遊んでいる内容を知りません。その後どうやって遊んでいたか子供たちから研修生は聞き出します。子供たちが遊んでいる部分と、研修生が子供たちから聞き出そうとしている部分は、どちらも録画してあります。その後、研修生は自信満々で子供たちから聞き出した話をしますが、実際子供たちが遊んでいた録画を見ると、全く違う遊びをしていたことがわかります。こうやって、言語化できない相手からどうやって言語にするのかのスキルを学ぶのです。


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