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執筆者の写真Asian Commons

「府中刑務所の参観」

2022年11月1日に、ALNメンバーを含む中国、日本、香港からの弁護士や人権活動家、大学教授、ジャーナリスト、大学の研究員、大学院生など合計20名で府中刑務所の団体参観をしました。新型コロナの影響により、受刑者が日常的に共同部屋や入浴場や作業場などの施設を中から見ることは叶いませんでしたが、中庭や廊下から中の様子を伺うことは多少できました。案内頂きながら一通り見て回った後は、刑務所のスタッフによる施設概況の説明会も実施されました。中国語の通訳を通じて話を聞いた中国人参加者らも質疑応答でに積極定に質問し、日本の刑務所について基礎的な知識を得ることができました。以下は、参観者向けに作られた府中刑務所の「施設のしおり」(写真)の内容と説明会の内容をまとめたものです。

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府中刑務所の沿革

府中刑務所の歴史は200年以上まで遡ることができます。1790年(寛政2年)、老中松平定信の命令で隅田川河口に「石川島人足寄場」が設置されて以来、新築移転や改称が幾度となく繰り返された後、大正11年に「巣鴨刑務所」と改称されました。そして、関東大震災を経た後の昭和10年に現在の刑務所が完成して「府中刑務所」と改称され、累犯受刑者で改善困難な者を収容することとなりました。昭和47年には、受刑者分類規定の制定により、B級受刑者とF級受刑者を収容することとなり、平成7年には外国人被収容者の増加に伴って、国際対策室が新設されました。


施設の規模

敷地面積は262,187平方メートル。収容定員は2,668名。


被収容者

主な収容対象は犯罪傾向の進んだ男子受刑者(日本人、外国人を含む)で、服役を繰り返しているのが特徴です。暴力団等の反社会的集団に関わっている、覚せい剤等の薬物事犯を繰り返している、アルコールに依存している、放浪壁があるなどの特徴があり、改善更生や社会復帰に当たる傷害を抱えている人たちです。


現在、日本では、刑務所の収容数は全国的にも減少をたどっており、府中刑務所も例外ではありません。収容者には高齢者が多く含まれるのも特徴です。


薬物事犯

府中刑務所の日本人受刑者の35.7%は覚せい剤等の薬物事犯、36.8%は窃盗などで収容されています。外国人受刑者に関しては、62.7%が覚せい剤等の薬物事犯、11.8%が強盗、8.2%が窃盗で収容されています。薬物事犯で収容されている場合、日本人受刑者の大半は薬物の自己使用が原因で、平均刑期は4年ほどです。一方で、外国人受刑者の大半は海外からの持ち込み事犯が多く、大量な薬物が関わることで重い刑期に服する場合が多く、平均刑期は7年8ヵ月です。そのうち、無期は29名です。


外国人収容者

現在の外国人受刑者は380名前後で、国籍数は60カ国以上、言語数は35言語以上に及び、多国籍化が進んでいます。最も多いのは中国籍(20.2%)で、2番目に多いのはベトナム国籍(9.1%)、続いてメキシコの順番です。


入所回数

外国人受刑者の99.2%が入所1回目であるのに対して、日本人受刑者の入所数は2回目(21%)、3回目(16.6%)、4回目(11.5%)、5回目(10.1%)、6回目(7.5%)、1回目(6.5%)という順で、1回目が最も低いのが印象的です。府中刑務所の入所最多数の受刑者は87才で、窃盗を繰り返してきた結果、現在、28回目の入所中ということです。


高齢化と医療

近年、受刑者の高齢化が進んでいるため、刑務所の作業が義務づけられていてもできない収容者もいます。そのため、脳トレーニングなどの身体機能の維持に力を入れています。また、収容者1500名のうち7割が心身の医療が必要なため、他の刑務所より医療スタッフが充実しているということです。診療を希望する収容者も多く、令和3年だけでも37,923件の希望があり、そのうち286件が通院、38件が入院でした。外部医療機関への通院や入院には逃亡リスクが伴うため、複数のスタッフが付き添いをするなどの配慮をしているそうです。


食事

毎回の食事のメニューは、食堂の外のガラスのショーケースに展示されます。受刑者もメニューを決めたりすることもあるそうです。外国人収容者は主食に米かパンを選ぶことができるそうですが、参観者の一人から、「なぜ日本人は選べないのか」という質問が投げられました。


苦情申出制度

刑務所内には、収容者が法務大臣宛てに「苦情申出」を提出できる制度があります。施設内に置かれた「提案箱」に入れられた苦情は手紙で法務省に送られ、そこで翻訳されます。刑務所のスタッフは中身を開けて見てはいけないというルールがあり、提案箱の鍵は視察者である第三者が持っています。また、第三者機関を通じて地域の人、弁護士などが手紙などで収容者と交流できることになっているそうです。



組織・所掌事務

府中刑務所の組織図のトップには、所長と府中刑務所視察委員会が位置しています。その下に、総務部、処遇部、教育部、医務部、分類審議室、国際対策室が置かれています。それらの傘下には、担当内容によって更に細かく分かれたユニットが置かれています。(例:国際対策室の場合は、➀翻訳・通訳をする「国際第一担当」と ②領事機関との連絡調整・国際受刑者移送をする「国際第二担当」がある)


処遇

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律において、受刑者が改善構成して社会復帰できるようにするための矯正処遇として、改善指導や教科指導を行うのが刑務所の役割としています。受刑者はそれらの指導を受け、作業を行うことが義務づけられています。そのため、受刑者は規則正しい動作時限に従って生活しなければなりません。


[受刑者の動作時限]


午前

起床洗面点検朝食出室作業開始昼食06:45 07:0507:3508:0012:00


午後

作業開始作業終了入室点検夕食仮就寝本就寝12:4016:40 16:5517:0018:0021:00



[作業]

懲役受刑者の義務である作業は、受刑者の勤労意欲を高めて職業能力の向上や資格・免許の取得につなげる有効な矯正処遇技法の一つです。作業の種類は、木工、印刷、洋裁、金属、革工等の生産作業、炊事、洗濯、営繕等の所内生活の維持運営を支える自営作業、そして、自動車整備科、建設機械科、フォークリスト運転科、ビジネススキル科、情報処理技術科、介護コースの職業訓練とに大きく分けられます。また、身体機能や認知機能の維持・向上を図り、段階的に一般的な生産作業に移行させることを目的とする機能向上作業も実施しています。作業報奨金は、原則として釈放の際に支給されますが、在所中でも一定の範囲内で図書購入等の自己用途に使用することが認められています。


[改善指導]

改善指導には、薬物依存脱離指導、暴力団離脱指導、性犯罪再犯防止指導、就労支援指導、酒害指導、被害者の視点を取り入れた教育、満期釈放前準備指導。就業指導、動物介在介入口座等を実施しています。また、外国人には、日本語教育も実施しています。


[通信教育・資格取得等]

受刑者に人気のある通信教育・資格取得には、簿記講座、危険物取扱者受講講座、衛生管理者口座、販売士検定、書道、ペン習字があります。高等学校卒業程度認定試験と簿記と漢字検定においては、毎年、所内において試験を受験できます。


[宗教]

信教の自由を保護するため、民間の宗教家に教講師の委嘱をして、受刑者の希望する宗派、教会等の宗教的行事への参加や礼拝等の機会が得られよう配慮しています。


その他にも、民間有識者によるカウンセリングや出所後の生活設計、屋外での運動時間や運動会などのレクリエーションもあります。


釈放

釈放には主に仮釈放と満期釈放の二つがあります。仮釈放は本人の反省が認められ、帰住先がある場合に許される制度で、社会復帰の促進を測るものです。満期釈放となった場合でも再犯に至らないように、釈放後の生活についての助言や福祉的支援・釈放時保護等に係る調整を行っています。


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府中刑務所の参観を終えた後に塀伝いに歩いたところで、刑務所作業製品が並ぶ販売店に立ち寄ることもできました。


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